【interview】「名水の街」西条でスタンプロードが使われるワケとは?/株式会社高橋工務店
インタビューをさせていただいた方:株式会社高橋工務店(愛媛県西条市) 専務取締役 高橋慶士様
インタビュアー 経営コンサルタント 前田健二
株式会社高橋工務店について
(インタビュアー前田健二、以下「前田」)はじめに、株式会社高橋工務店のプロフィールを教えて下さい。
(株式会社高橋工務店 専務取締役高橋慶士様、以下「高橋専務」)高橋工務店は、昭和29年(1954年)4月設立の会社です。今年で設立から67年を迎えます。設立当初から西条市を地盤に仕事をしています。ちなみに社歴は弊社社長の年齢と同じです。社長が生まれた年に初代社長が弊社を興したからです。業種的には建設業と不動産業です。一部社長が農業をやっています。メインの仕事は建設業ですが、建設業の仕事のメインは公共事業です。バブルの頃は建築の仕事もしていましたが、資金回収が難しくなったりしたため、今はしていません。
前田:なるほど、ちなみに高橋専務のご経歴を教えていただけますか。
高橋専務:私は、弊社入社前は大手の道路会社に勤務していました。全国各地で仕事をしていましたが、航空自衛隊の基地の滑走路や、港湾施設の道路などを作っていました。4年前に家業である弊社へ入社し、3年前に弊社の専務取締役に就任しました。
前田:事実上の三代目就任ですね。道路会社から高橋工務店に戻ってこられた時の印象はいかがでしたか?
高橋専務:戻ってきて感じた最初のことは、やっている仕事のほとんどが公共事業であったことです。公共事業のウェイトが高いので、民間の仕事をもっとやるようにすれば売上の増加と安定が見込めると考えました。
前田:歴史的に公共の仕事が多かったのですか?
高橋専務:そうです。仕事全体の7-8割が公共事業です。公共事業の下請けの仕事を入れると全体の9割になります。
前田:公共工事のうち、どのような仕事をしてこられたのですか?
高橋専務:主に土木ですね。具体的には河川港湾、道路、下水などです。建物以外の土木周りの仕事がほとんどです。西条市の仕事がメインですが、それに加えて東予地区の一部をやったり、私の代になってからは長崎や宮崎のコンクリート舗装の仕事もしたりしています。
前田:公共事業がほぼすべてという状況の中、もっと民間の仕事をやろうと思われた。そのきっかけは何だったのですか?
高橋専務:仕事のほとんどを公共事業に依存しているのは、ある種リスクがあると考えたからです。例えばリーマンショックであったり、最近であればコロナであったり、あるいは政権交代であったり、公共事業は社会事情や経済環境に常に大きく影響されます。また、公共事業に依存するということは、弊社の売上が公共事業の発注量に左右されることになります。言うなれば地域と共に栄え、地域と共に滅びる可能性がある。特に西条市などは人口が減少傾向にあり、減少すれば税収も減ります。愛媛県も西条市も、いずれも減少傾向にあります。何か手を打たなければならないという問題意識を持ちながら、民間の仕事に活路を見出せないかと考えたのです。
西条市という街について
前田:なるほど。西条市も人口が減少傾向にあるとのことですが、この西条市という街は、どのような街なのでしょうか?
高橋専務:元城下町でもあり、結構保守的な街です。人口は減少傾向にありますが、西条市は移住者の招致に熱心です。出版社の宝島社が行った「2021年版住みたい田舎ベストランキング」において、総合・若者・子育て・シニアの、すべての部門において全国1位を獲得しています。また、若者世代が住みたい田舎部門も全国1位となり、二連覇を達成しました。また、自噴井「うちぬき」が街のあちこちにあり、水が美味しいことでも知られています。市内の多くのエリアにおいて水道代が無料です。
前田:では、西条市の産業や経済についてはいかがでしょう?
高橋専務:農業がメインです。港湾エリアの方に工業地帯もありますが、米や小麦の生産が盛んです。野菜や果物なども栽培されていて、愛媛県で有数の農業地帯です。
前田:ところで、この西条市という街では型押しアスファルト工法が結構使われているように見えます。それには何か理由があるのでしょうか?
高橋専務:西条市の設計の人たちに気に入られたのが大きいと思います。工法そのものがわかりやすくて景観的に良く、コストパフォーマンスも良い。石張りやインターロッキングなどよりも工期が短縮できる。そういう情報なり知識を、設計の人達が持っているのが理由だと思います。
スタンプロードについて
前田:では、そろそろスタンプロードについておたずねします。高橋専務がスタンプロードをお知りになったきっかけを教えて下さい。
高橋専務:前に勤務していた道路会社の上司の紹介です。その上司が三豊工業の営業担当者さんと知り合いで、上司から三豊工業のスタンプロードについて教わりました。去年2020年5月くらいの話です。
前田:それまでは、スタンプロードについての知識はお持ちだったのですか?
高橋専務:スタンプロードというより、型押しアスファルト工法についての知識はありましたし、実際に前の会社で型押しアスファルト工法の仕事もしてきました。複数のメーカーが似たような製品を出していますが、それらが具体的にどんなものであるかは理解していました。そうした製品の中に、スタンプロードというブランドが新たに立ち上がったと認識しています。現時点では、ある競合製品の名前の方がある種全国区になっていますが、今後はスタンプロードの普及に力を入れたいと考えています。
前田:なるほど、すでに他社の型押しアスファルト工法のお仕事をされていたのですね。しかも、類似製品もたくさんある。
高橋専務:公共事業で難しいのは、入札する会社が特許などで技術を独り占め出来ないことです。一社だけしか技術的に対応できないといった場合、独禁法の関係でその会社へ発注出来ません。よって、公共事業においては一社単独ではなく、かならず複数の会社で対応出来るようになっていないといけないのです。特許を取ってしまうと、民間事業でしか使えない技術になってしまう。従って、スタンプロードのほかに類似製品が存在していることは、公共事業の仕事を受注する上ではかえって都合がいいのです。
前田:類似製品が複数存在する中でスタンプロードが出てきた。どのようにお感じになりましたか?
高橋専務:民間事業に参入するチャンスが来たと思いました。実際の製品も競合製品と比べて便利になった部分があり、着色の材料の品質や価格も悪くないと感じました。全般的に自由度が高くなり、顔料も改善されて競合製品よりも施工性が良くなったと思います。
前田:パターンについてはいかがですか?
競合製品に比べてパターンは多種になったと思います。競合製品の鉄製のパターンよりも軽くて取扱いが楽ですが、実際に施行してみると伸びてしまう時があります。また、鉄のパターンに比べて、パターンにアスファルトがくっつきやすい。それを掃除しながらやっていると、目地がぐちゃぐちゃになってしまう。パターンをいちいち掃除しなければならないのは少々手間ですね。剥離剤を塗ってみたりと色々試したのですが、まだ十分に解決出来ていません。この辺はぜひ改良していただきたいですね。でも、施工するエリアによってアスファルト含有量や質が違ったりするので、なかなか難しいとは思いますが。
前田:色についてはいかがですか?
高橋専務:色については問題ありませんが、色によってはアスファルトに入りにくい色があったりします。白とか青とか入りにくいですね。アスファルトの内容や状態などによっても左右されるかもしれないので、そうした現場ごとの情報を何らかの形で共有できるといいですね。
前田:ヒーターについてはいかがですか?
高橋専務:ヒーターについては、どうメンテナンスすればよいのかわからないのが悩みです。ヒーターを使っていて、左右で温度の上がり具合が違ったり、ばらつきが出たりすることがあります。調子が良い時は良いのですが、コンスタントにバラツキが出ます。これをどう整備してゆけばよいのかわかりません。温度のバラツキは温度計にも出ていますが、解決策を知りたいです。
スタンプロード認定施工店になった理由
前田:では、御社がスタンプロード認定施工店になった理由を教えて下さい。
高橋専務:私自身にアスファルトの知識があり、それをもって色々と仕事の話ができそうだと考えたのが第一の理由です。また、前に勤務していた道路会社の上司の紹介であったことも理由の一つです。私にとっては上司というよりも恩師というべき人であり、その人の紹介であれば信用できると考えました。さらに最大の理由は、西条市がすでに三豊工業さんの型押しアスファルト工法を設計に入れてくれていたことです。すでに西条市で施工実績もあり、これから参入したとしても、仕事が全くないと言うことにはならないだろうと考えたのです。逆に言うと、そうした見込案件がまったくなかったら、話は違っていたかも知れません。
前田:今、お受けになっているスタンプロードの仕事は、公共事業がほとんどですか?
高橋専務:公共と民間と半々位です。民間の仕事では、事務所や店舗の駐車場とかをやっています。今後も公共と民間の仕事の両方を、バランス良くやってゆきたいと思います。公共がダメでも民間が良い、逆に民間がダメでも公共が良いといった感じで、両方合わせて損益分岐点を常に超えている状態を目指したいです。
スタンプロードの営業体制
前田:スタンプロードの民間の仕事について、今後こういう風に展開してゆきたいといったイメージはございますか?
高橋専務:お店のオーナーなど、景観にこだわる人に付加価値として提供してゆけたらと考えています。単なる舗装だけだと受注額が安くなってしまう。舗装プラス付加価値を付ければ受注額をアップすることが出来る。駐車場について「車が駐車できればいいだろう」というタイプの人達にではなく、あくまでも景観にこだわる人達にどんどん提案してゆきたいです。
そのため、今伊予銀行さんに見込客を紹介していただいています。伊予銀行さんの行内ネットワークに弊社とスタンプロードの情報を載せていただいて、それを全支店の行員さんが閲覧できるようにしていただいています。
前田:スタンプロードの民間の仕事をとるために、他になにか営業活動はしておられますか?
高橋専務:広告と言いますか、業界紙に記事として取り上げていただいています。「経済レポート」という雑誌ですが、そちらでご紹介いただきました。それを見たお客様から3件ほどお問合せをいただきました。また、弊社はまだホームページを立ち上げていませんので、いずれはホームページを立ち上げて、「愛媛県 アスファルト工法」「三条市 景観アスファルト」といったキーワードで引っかかるようにする予定です。
スタンプロードの作業チーム
前田:御社のスタンプロードの作業チームについて教えて下さい。
高橋専務:現在、弊社は社員14名、役員3名で構成していますが、そのうち10名程度にスタンプロードを担当してもらっています。特に30代以下の若手社員を中心に構成しています。そうした若い世代がスタンプロードの技術を身に着け、次世代へ継承してくれることを望んでいます。50代60代のベテラン世代よりも、スタンプロードに興味を持ってくれているようです。
前田:若手社員さんの反応はいかがですか?
高橋専務:新しい技術を学べるという、喜びを感じてもらえていると思います。新しい技術を学ぶことで先輩が出来ないことが出来るようになる。そのように前向きにとらえてくれていると思います。
前田:ところで、若手の社員さんはどのように確保しておられるのですか?
高橋専務:高校求人とハローワークです。たまたま求人を出したら運よく来てくれました。前にはトライアル雇用で若手を採用したこともあります。地元の高校で土木を学んでいる生徒の数は減り続けていて、土木・建築科を出ても土木の仕事に就かない子も出てきています。
三豊工業に望むことなど
前田:最後に、三豊工業に望むことなどございましたらお願いいたします。
高橋専務:スタンプロードという工法については、材料やマシンなどを随時進化させていければいいと思います。我々も現場サイドからどんどんフィードバックさせていただきます。
舗装の仕事をやっていて面白いのは、路盤をつくる時、関東ではブルドーザーを使います。こちら(西条市)や中四国、九州ではバックホウでやります。静岡や南関東も違います。バックホウでも南九州ではデカバケットでやります。つまり、日本各地のエリアでやり方がそれぞれで、それぞれ最適なやり方が採用されているのです。
スタンプロードについても、状況は多分同じようになると思います。例えば、北海道には北海道に最適なやり方があるはずです。関東、中部、四国、九州も同様です。日本各地のスタンプロード認定施工店からそうした情報を本部が吸い上げ、すべての認定施工店で共有することができたら面白いしとても有効だと思います。そもそも使われるアスファルトも全国でバラバラですし、施工条件なども違いますが、そうした様々な情報を参考にすることで自分達の作業品質を高めることができるようになると思います。
前田:なるほど、すべての認定施工店で情報を提供し合い、共有するというアイデアは非常面白いですね。本日は大変有意義なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。御社のスタンプロード事業のさらなるご発展をお祈りいたします。
高橋専務:こちらこそ、ありがとうございました。
西条市は、愛媛県東予地方北東に位置する人口10万4千人の静かな街です。市内には3千本もの自噴井があり、一日に9万㎥もの地下水が湧出しています。その自噴井「うちぬき」から湧き出る水は国の名水百選にも選定され、西条市は水が豊かで美味しい名水の街として知られています。
西条市はまた、「新幹線の生みの親」と呼ばれている第4代国鉄総裁十河信二(そごう・しんじ)氏の郷里としても知られています。周囲の反対を押し切り、壮大な構想と信念をもって新幹線導入計画を進めた地元の偉人をたたえるため、JR伊予西条駅近隣に十河信二記念館と鉄道歴史パークが建設されています。
JR伊予西条駅から車で5分位の、駅からやや北側に位置する株式会社高橋工務店の本社を訪ね、同社専務取締役高橋慶士様に、スタンプロードを導入されたきっかけなどについてお話をうかがってきました。